アイワにふたつのTP-S30

カセットボーイ


もー、ばかなんじゃないの?
と、思ってしまいました。

さすがにTP-S30にかぶせますかね~。

なんで?わざとじゃないよね。
理解不能です。

初代カセットボーイ TP-S30

ひとつは言わずと知れた、泣く子も黙るあのTP-S30。
初代カセットボーイであらせられます。

1979年7月1日、ソニーがウォークマンを発売。
空前の大ヒット。

高校2年だったワタクシもこんなん売れんの?と思ってソニーが出してきた新製品を見てましたが、結果大ヒットでした。ティーンにバカ受け。

クラスの仲間がウォークマン買って、松田聖子を聴きながらチャリ通してきたのを見たら、急に羨ましくて欲しくなっちゃいましたし。

そんな活況を受け、アイワも出すぞ、って作ったのがこのTP-S30でした。

しかし、ただマネして作ったってデザインセンスに優れかつネームバリューがあるソニーには勝てない。

そこでアイワが出した答えが、録音できるウォークマン。

当時、ヘッドホンを頭に被って外を歩くなんていう風習はまだなく、そんなことできるのは若者だけ。でも若者は金持ってないので、親にねだってやっと買ってもらう1台になる。
しかしウォークマンは録音できないので、録音機が別に必要になる。

ということは、単体で録音できるんなら、そっちのほうが選ばれるんじゃないか。
デザインによるイメージ戦略ではなく、実用性に訴えたわけです。

もちろん録音ができるとしても、でかくて重くてかさばるんじゃ意味がない。大きさは同等にしないと。

という厳しい条件をわずか11ヶ月でクリアして1980年6月、TP-S30はリリースされました。ほんとアイワ設計陣の開発力は凄まじい。

ウォークマンTPS-L2
W88×H133.5×D29mm 390g(電池含む)

カセットボーイTP-S30
W139.9×H80.8×D26.8mm 365g(電池含む)

長手方向が6.4mm長いですが、あとはすべて下回っています。
モノラルながらマイクも内蔵しているのでメモ録機としても使え、テープカウンターもついていてキュー/レビューもできる利便性まで確保してのこのサイズ。見事です。

しかも急場凌ぎで慌てて作ったのですぐ壊れる、なんていうことは一切なく、令和の今でもゴムベルトさえ交換すれば動作する個体がたくさん流通しています。

もっともこれには裏話があって、ちょうど同時期に、モノラルの小型テープレコーダーに向けて新型のカセットメカニズムを開発していたため、それを流用したことによって開発期間の短縮ができた、という経緯がありました。

その小型テレコがTP-25になります。

前機種であるTP-20は、アポロ月面着陸の翌年、1970年発売のTP-743からの流れを汲む小型テープレコーダーであり、そこからTP-747,TP-748,TP-22と10年近く似たような形状を維持継続してきたため、確かに古さは否めないところ。迎える80年代に向けての新時代にふさわしいテープレコーダーの登場が待たれるところでした。

加えて、1978年にはTP-M11でマイクロカセットレコーダーの製造・販売に参入しており、小型メカニズムの開発技術が確立したこともきっかけになったと考えられます。

そんな折りに登場し、センセーションを巻き起こしたソニーウォークマンに急遽対応すべく、TP-25のリリースを後回しにしてまで新型メカをTP-S30に投入したこともあって、早期に発売することができたのでした。

こうしてプロジェクトXばりの努力によって完成したTP-S30につけられたネーミングが「カセットボーイ」。

カッコいいけど高かったウォークマンには手が出ず、若者に寄り添うカセットボーイのお世話になった諸君がいかに多かったかは、ネットで検索すればたくさん出てきます。

そんなアイワの金字塔的製品であらせられるところのTP-S30なわけですが。

もうひとつの TP-S30

ったく、いつ出したんだよ!
と、調べてみると、2000年9月21日発売でした。

アイワ社内では希望退職を募っていた時期です。
会社の土台が崩れ、少しずつ傾きはじめていました。
ワタクシもこのおよそ10ヶ月後に退職しています。

見るからに安っちいプラスチックボデー。
ずんぐりむっくりした形状にローコストなカセットメカ。
あまりに残念な見た目。

パッケージからしてアクセサリー程度の扱い。
実売価格3,980円。これじゃあ儲かるわけない。

でも、よく見ていくとなかなか高機能。
カセット蓋側にフラットマイクとスピーカーを搭載し、SLSS(サウンドレベルセンサーシステム:静かな時は録音を止め、話声がしたら録音をはじめる機能)とスピード調整がついている。
キュー/レビューもでき、一時停止はしづらそうだけど低価格な中でも記録用レコーダーとして過不足ない機能を装備している。

バブル崩壊後の寒空に向けてリリースした製品としては健闘している、とは思います。

だけどね。
TP-S30の名を冠するほどではないよ。
何か革新的な機能があるわけでもないし。
電池の持ちがちょっといいくらい。

もっとも過去のTP-S30を知っての上で験を担ぐとかで被せたとも思えません。

単にTP-S3の後継機だからTP-S30にしたっぽい。

過去を知らない若手社員の手抜き仕事だったんだろうと推測します。
希望退職でベテラン社員が辞めちゃったんでしょうね、きっと。いたら「TP-S30はな、永久欠番ものなんだぞ」、と諭したはず。

まぁでも、担当者は頑張って作ったんだと思いますので、末席のほうに置いてやってください。

薄利多売な運命を背負わされた製品ではありましたが、回転ノイズが入りにくい静音かつ電池の持ちがよくなるメカなど、苦心の跡が伺えます。

開けてみると外装を固定する4本のネジだけで基板もメカも固定される構造で、基板を固定するネジが1本もないのには驚きました。
さらにはメカの裏側もほとんど金属が使われておらず、静音という意図があるにせよプラスチックでここまでシンプルにできていることにも驚きました。

日本軍の誇るジュラルミン製だったゼロ戦が、敗色濃厚な終末期には重要度の低い部位に紙を貼って出撃したという逸話と被ってしまい、なんとも居たたまれない悲しい気持ちになってしまいました。

それでもやっぱり許すとは言えないワタクシ。
TP-S30の名は使っちゃダメだよ、さすがに。

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